ネムノ木
キャプテンとして初めて夏合宿に臨んだことは、60年前の様子が生々しく目の前に現れる。触れたくないが、素通りする訳にはいかない。
合宿の生活は、前項に描いた通りだが、その中の一番の行事は肝試しである。学校の裏山、皿木ガ丘は校歌に謳われている小高い山である。
皿木ガ丘の頂上に鎮魂の碑がある。真夜中、碑に1人で帽子を置いて、次の者が取りに行く、インチキが出来ないようになっている。
キャプテンが最初に帽子を置いてくるのが恒例になっている。街灯もなく暗闇の山道を登って行くには相当の度胸がいる。
昨年までは先輩が登った後で、ずいぶん気が楽であった、今年はそうはいかない。私が先陣を切らなければならない。皆の見本を示さなければならない。
小便を漏らすほど、誰もが尻込みするほどの怖さである。元来臆病な私は、その場を逃げ出したいくらいだ。キャプテンの威厳を示すためには、震えをおくびにも出せない。キャプテンになり手がないのも解る気がした。 つづく