悲報

 サラリーマン生活は8年ほど経験した。営業部に配属され、見習いとしてスタートした。営業マンのイロハを教えてくれたのがTさんだった。
学校の先生ばかりが恩師でない。社会人として仕事を指南してくれたTさんは私の恩師である。Tさんは仕事は勿論、仕事が終わった後、夜の街、焼き鳥屋、居酒屋に誘ってくれた。人間関係の機微を話してくれた。

 生意気盛りの私を、粘り強く指導してくれた。販売店の担当として独り立ち出来たのもTさんのお陰である。
一緒に仕事をしたのは、わずかな時間であったが、50年以上たった現在でも、Tさんのことは思い出す。

 昨夜、くつろいでいると、黒電話が鳴った。オレオレ詐欺の電話ならすぐ切るに限る。「もしもし、、、」消え入るような声である。「Tだよ、、、、」、「話すのがつらい」。声からして弱っているのが解る。
ハンサムで、頭脳明晰だったTさん、変われば変わるものである。元同僚の消息はなぜか詳しい。「U,M,N、Oも死んだ」。そして一方的に電話は切れた。悲報である。